大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和51年(ワ)6251号 判決

原告

長谷川和雄

ほか一名

被告

立川市

ほか三名

主文

被告酒井均于、同有限会社高坂興業、同高坂利昌は、各自、原告長谷川和雄に対し、金二三二万四〇三六円及び内金一八二万四〇三六円に対する昭和五〇年四月一五日から、内金五〇万円に対する被告酒井については昭和五一年八月一九日から、被告有限会社高坂興業、被告高坂利昌については同年同月二二日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、原告長谷川冷子に対し金一八二万四〇三六円及びこれに対する昭和五〇年四月一五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。

原告らの被告酒井均于、同有限会社高坂興業、同高坂利昌に対するその余の請求、被告立川市に対する請求をいずれも棄却する。

訴訟費用中原告らと被告酒井均于、同有限会社高坂興業、同高坂利昌との間に生じた分は二分し、その一を原告らの、その余を被告らの、原告らと被告立川市との間に生じた分は原告らの各負担とする。

この判決は、被告酒井均于、同有限会社高坂興業、同高坂利昌に対する原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告長谷川和雄に対し金四八三万九七五六円、原告長谷川冷子に対し金四〇三万九七五六円及び右各金員に対する昭和五〇年四月一五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

被告酒井均于(以下被告酒井という。)は、昭和五〇年四月一五日午後四時三〇分ころ、大型貨物自動車(ダンプカー、多摩一一や二九七六、以下被告車という。)を運転して、東京都立川市砂川町一六二一番地先の交通整理の行われていない交差点(以下本件交差点という。)を南方大山団地方面から北方五日市街道方面に向け通過した際、折から子供用自転車を運転して被告車の直前付近を横断中の訴外長谷川桂二(以下桂二という。)に被告車を衝突させ、路上に転倒させたうえ右後車輪で轢過し、よつて亡桂二に脳挫滅、脳挫傷等の傷害を負わせて即死させた。

2  責任

(一) 被告酒井

被告酒井は、本件交差点を通過した後、対向車と出会つたため本件交差点まで一旦後退し、対向車が左折進行した後再び発進したものであるが、本件交差点は交差する道路がいずれも道幅が狭く、見通しも悪いうえ、周辺には住宅等もあつて、自転車等による通行者のあることは容易に予想されるのであるから、右発進にあたつては進路の前方及び左右を特に注視し、自車の周囲の安全を十分に確認のうえ発進、進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、周囲の安全を確認することなく急いで発進・進行した過失により本件事故を惹起したもので 同被告は民法七〇九条に基づき、本件事故により生じた後記損害を賠償すべき義務がある。

(二) 被告有限会社高坂興業、同高坂利昌

被告有限会社高坂興業(以下被告会社という。)は、昭和四九年九月ころから本件事故当時まで、被告酒井を同人所有のダンプカー持込みで「常用」(仕事量に関係なく月給もしくは日給で雇傭する。)として継続して雇傭し、被告会社の業務である残土運搬作業に従事させ、本件事故当日はたまたま「常用」としての仕事が終了した後、改めて「台数引き」(運搬の距離、荷の内容等により一台あたりの金額で請負う。)の契約に基き被告会社の仕事を請負わせ、その運搬途中で本件事故が発生したものである。

したがつて、被告会社は本件事故時における被告車の運行につき支配と利益を有し、運行供用者にあたるものというべきである。

また、被告高坂利昌(以下被告高坂という。)は、被告会社の代表取締役で、被告会社に代わつて現実に事業の監督にあたつていたものである。

したがつて、被告会社は自動車賠償保障法三条に基づき、被告高坂は民法七一五条二項に基づき、それぞれ本件事故により生じた後記損害を賠償すべき義務がある。

(三) 被告立川市

被告立川市は、本件事故の発生した道路である立川市道第七四五号線(以下本件道路という。)及び本件交差点で右道路と交差する立川市道第七四一号線(以下交差道路という。)の管理者である。ところで、本件道路は全長八六四メートル、幅員三・六四メートル(一部大山団地商店街附近は六メートル)の道路で、同道路は五日市街道から昭島方面へ向かう抜け道ないし裏道になつているため車両の交通量は、昼間は一分あたり二台ないし一〇台にすぎないが、朝夕は極めて多く、また近隣には住宅が多く小学校や幼稚園があるため通学路に指定されており、右のような本件道路及び本件交差点に対する被告立川市の管理に次のとおりの瑕疵があつた。

すなわち、〈1〉本件道路は車両制限令五条一項に該当する道路であると考えられるが、その幅員は前記のとおり三・六四メートルで、路肩の幅員は合計一メートル未満であるから、同条項によればその車道の幅員は二・六四メートルとなり、通行し得る車両の幅は二・一四メートル以下でなければならず、したがつて被告立川市は本件道路について車幅最大二・四五メートルを有する本件被告車のような大型車両の通行制限、警告等の措置を講ずるべきであつた。

〈2〉本件道路は、比較的交通量が多いにもかかわらずその幅員は前記のとおり三・六四メートルで、路肩、電柱等の通行に障害となる部分を除くと実質約三メートルしかなく、普通車の場合でも対向車同士の離合、すれ違いが不可能なのであるから、被告立川市は、本件道路についてその交通の安全を図るため都公安委員会と協議協力し又は同委員会に助言して一方通行規制の措置の実現に努めるべきであつた。

〈3〉本件交差点は、道幅が狭い上に周囲を生垣・石塀等で囲まれているために左右の見通しが極めて悪いのであるから、被告立川市は本件交差点の角に左右確認のためのミラーを設置する等自動車運転者の視野を改善するための措置を講ずるべきであつた。しかるに被告立川市はこれらの措置を講ずることなく放置していたもので、右は公の営造物たる本件道路及び本件交差点の管理に瑕疵があつたものというべきである。そして右管理の瑕疵が本件事故の一要因を成しているから、被告立川市は、国家賠償法二条に基づき、本件事故によつて生じた後記損害を賠償すべき義務がある。

3  損害

(一) 治療費

原告長谷川和雄、同長谷川冷子(以下原告和雄、同冷子という。)は亡桂二の父母であるところ、原告和雄は亡桂二の治療費として金七万七六八〇円を支払つた。

(二) 葬儀費

原告和雄は亡桂二の葬儀を営み、その費用として金三〇万円を支出した。

(三) 逸失利益

亡桂二は、本件事故当時心身に異常のない健康な五歳の男子であつたから、本件事故により死亡しなければ一五歳から六七歳までの五二年間稼働し、その間毎年月平均給与金一二万八三〇〇円、年間特別給与金三五万四一〇〇円合計金一八九万三七〇〇円の収入(昭和四九年賃金センサス第一巻第一表、産業計、企業規模計、小学・新中卒の男子労働者の給与額)を得られたはずであり、右収入から五〇パーセントの割合による生活費を控除し、更にライプニツツ方式による年五分の割合による中間利息及び同人の五歳から一五歳に至るまで毎月金一万円の割合による一〇年間の養育費合計金一二〇万円からライプニツツ方式による年五分の割合による中間利息を控除した金九二万六五二〇円をそれぞれ控除し、亡桂二の逸失利益の死亡時の現価を求めると、その額は金九七七万九五一二円となる。

原告らは亡桂二の父母として法定相続分に従い亡桂二の右損害賠償債権の二分の一ずつを相続により取得した。

(四) 慰藉料

亡桂二は本件事故により即死したものであるところ、同人の慰藉料は金二〇〇万円が相当である。そして原告らは右慰藉料債権の二分の一ずつを相続により取得した。

また、原告らは亡桂二の死亡により大きな精神的打撃を受けたものであるところ、これが慰藉料は原告らそれぞれにつき金三〇〇万円が相当である。

(五) 弁護士費用 金八〇万円

原告和雄は、原告代理人らに本訴の提起追行を委任し、その報酬を支払うことを約したが、その額は金八〇万円が相当である。

したがつて、原告和雄の取得した損害合計額は金一〇〇六万七四三六円、原告冷子のそれは合計金八八八万九七五六円となる。

4  損害のてん補

原告らは本件事故に関し自賠責保険から、金一〇〇七万七六八〇円を受領したので、右保険金額のうち七万七六八〇円、三〇万円をそれぞれ原告和雄に生じた前記3(一)、(二)の各損害に充当し、残額金九七〇万円を二分して、それぞれを原告らの取得したその余の損害の各一部に充当した。

5  よつて原告らは、被告らが、各自、原告和雄に対し金四八三万九七五六円、原告冷子に対し金四〇三万九七五六円及び右各金員に対する本件事故発生の日である昭和五〇年四月一五日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

二  請求の原因に対する被告らの認否

1  被告酒井

請求の原因1の事実は認める。同2(一)の事実は争う。同3のうち(一)、(二)の事実は認めるが、同(三)ないし(五)の事実は知らない。同4のうち保険金の受領事実は認めるがその余は知らない。

2  被告会社、被告高坂

請求の原因1、同2(一)の事実は知らない。同2(二)のうち、被告車が被告酒井の所有であつたこと、被告高坂が被告会社の代表取締役であることは認めるが、被告会社が被告高坂を「常用」として雇傭していたこと、被告会社が被告車の運行供用者であること、被告高坂が代理監督者であつたことはいずれも否認する。同3(一)、(二)の事実は知らない。同(三)ないし(五)の事実は争う。亡桂二の稼働可能期間は一八歳からで、養育費も月額金二万円とみるべきである。同4の事実は知らない。

被告会社が被告酒井と雇傭契約を締結したことはなく、同被告に日給で仕事を請負わせたのは昭和四八年九月以降本件事故発生日までの間、月平均五日余にすぎず、また、被告会社が専属的に請負契約を締結する者は、任意保険に加入していることを条件とし、請負人の持込み車両を被告会社の専属代車としてその車体に「高坂興業」のネームを入れさせ随時車体の点検・車検の手数料の立替払・被告会社名での給油・運転手に対する免許証の確認・仕事全般の指示等をしているものであるが、被告酒井についてはそのような事実はない。もつとも被告会社は被告酒井に対し仕事先を紹介する場合があるけれども、それは被告酒井の懇請により単に注文を取次いでいるにすぎず、この場合、被告酒井の依頼により被告会社が被告酒井に代わつて右注文者から集金をし、被告会社自身の仕事による報酬を支払う際にこれを一括して手渡していただけのことである。

更に、本件事故当日被告会社との契約に基づく残土運搬作業は午後四時に終了しており、その後被告酒井は被告会社とは無関係に他の業者と「台数引き」の契約をしたうえ右業者の残土運搬作業に従事し、右作業従事中の運転により本件事故を惹起したものである。以上のとおりであるから、被告会社は被告車を自己のために運行の用に供していた者ではないし、被告高坂も被告会社に代わつて被告酒井を選任、監督していたものでもない。

3  被告立川市

請求の原因1及び2(一)の事実はいずれも認める。同2(三)のうち、被告立川市が本件道路及び交差道路の管理者であること、本件道路の全長、幅員が原告ら主張のとおりで、同道路が五日市街道から昭島方面に向うため利用されており、近くに小学校や幼稚園があつて、同道路が通学路に指定されていること、本件事故当時、本件道路について原告ら主張の大型車両の通行禁止、及び車両の一方通行規制の各措置がとられていなかつたことは認めるが、本件道路及び本件交差点の管理に瑕疵があるとの主張は否認し、その余の主張は争う。

同3、4の事実はいずれも知らない。

本件道路は平坦でかつ直線道路で、時速二〇キロメートルの速度制限がなされ、本件交差点も南東角が三・二メートル、北東角が四・三メートル、南西角が四メートル、西北角が三・九メートルとそれぞれ隅切りがなされ、その西側すなわち被告車の進行方向左側にはミラーが設置されている外、亡桂二が進行してきたと思われる天王橋方向から本件交差点に入る手前には一時停止の標識があり、その反対方向からの車両は進入禁止の措置がとられており、本件道路は一般の通行に支障のないよう良好に管理されてきたのであつて、道路が通常有すべき安全性を具備していたものである。

本件道路につき大型車両の通行制限の措置はとられていなかつたが、右措置は交通の円滑な流れを妨げることもあるので、具体的な必要性と代替道路などの検討なくしてとることはできず、右措置をとつたとしても事故の発生を確実に避けることはできないし、本件事故の態様からしてその発生を防止することはできなかつた。

また一方通行規制は公安委員会のみがなし得るもので、被告立川市がこれに介入することはできず、仮に助言協議するとしても、他に適当な代替道路がないのみならず、更に一方通行の規制をした場合でも本件事故の態様からして本件事故の発生を防止することはできなかつた。

したがつて、被告立川市は本件事故につきその責任はないものというべきである。

三  抗弁

1  免責の抗弁(被告会社)

被告会社及び被告酒井は加害車の運行に関して注意を怠らず、本件事故は亡桂二及び原告ら被害者側の過失によつて発生したものであり、かつ被告車に構造上の欠陥は機能の障害がなかつたので被告会社には本件事故により生じた損害を賠償すべき責任がない。

2  過失相殺(被告会社、被告高坂)

本件事故については、亡桂二が交差道路を自転車で走行してきて、本件交差点に入る直前に「止まれ」の道路標示及び停止線が表示されているにもかかわらず、同人において一旦停止の義務を怠り本件交差点内の安全を確認しないまま進入し、かつ被告車の直前付近を横断した過失、及び当時五歳の幼児を比較的交通量の多い道路上において比較的大きめの子供用自転車を運転して単身行動するに任せた原告らの過失が大きく寄与しているものと言わなければならないから、賠償額算定に当たつては、これを斟酌すべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁1、2はいずれも争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生及び態様

原告ら主張の日時場所において、主張の事故が発生したことは、原告らと被告酒井、同立川市との間においては争いがなく、被告会社及び同高坂間においても、原告らと同被告らとの間にいずれも成立に争いのない甲第二号証、第五ないし第八号証、丙第六、第七号証、第一〇号証及び被告酒井均于本人尋問の結果を総合すると、右の事実が認められ、更に右各証拠(丙号証については被告立川市の関係ではその方式及び趣旨からして公文書と認められるから真正に成立したものと推定される。)を総合すると、本件事故の態様は次のとおりであつたことが認められ(その大要は原告らと被告立川市との間においては争いがない。)、他に右認定を左右する証拠はない。

すなわち、被告酒井は被告車を運転して本件道路を南方大山団地方面から北方五日市街道方面に向かい直進進行し、一旦本件交差点を通過し、約二五メートル進行したところ、同所附近で対向車(乗用自動車)と出会い、本件道路の幅員が狭くすれ違い走行ができないことから被告酒井において後退したうえ本件交差点内に被告車を一時停止させ、右対向車が本件交差点から東方砂川三番方面に左折進行するのを待つて、発進進行しようとしたが、その際被告酒井としては途中で再び対向車と出会い、またしても進路を譲るために後退させられることを気づかい自車の直前及び左側方の安全を全く確認しないまま、時速約一五キロメートルで五日市街道方面に向けて急いで発進し、約七、八メートル進行した際、右後車輪で何かを轢過したことに気づいたこと、右はたまたま交差道路上を西方天王橋方面(被告車の進行方向に向かつて左側)から子供用自転車を運転して本件交差点にさしかかつた亡桂二がそのまま右一時停止中の被告車の直前付近を直進横断しようとしたところ、丁度そのとき被告車が発進したため同車に接触されて右自転車もろとも路上に転倒し、右転倒した亡桂二を被告車が右後車輪で轢過したものであることが認められる。

二  責任

1  被告酒井

前記一における認定事実によれば、本件事故は被告酒井が本件交差点内で一時停止の状態から再度発進するにあたつて、自車の直前及び左側方の安全を確認すべき注意義務があるのにこれを怠つたため発生したものであることは明らかであり、したがつて同被告は民法七〇九条に基づき、本件事故により生じた損害を賠償すべき義務があるといわなければならない。

2  被告会社、被告高坂

前掲丙第一〇号証、成立に争いがない丙第四号証、被告酒井均于本人尋問の結果によつて真正に成立したと認められる甲第九号証、同本人尋問の結果及び被告会社代表者兼被告本人高坂利昌尋問の結果(ただし後記措信しない部分を除く。)ならびに弁論の全趣旨を総合すると、被告会社は土木工事一般等を営業目的として昭和四九年四月に資本金一〇〇万円をもつて設立され、被告高坂がその代表取締役であること(被告高坂が被告会社の代表取締役であることは当事者間に争いがない。)、被告会社は土木工事業者として都知事の免許を取得し主として残土運搬作業に当たつていたものの、本件事故当時事務員は置かず、被告高坂が自ら事業全般の切盛りを行い、実質的にその個人会社というべきものであつたこと、ところで、被告会社は本件事故当時自らはダンプカーを所有せず、作業を専らダンプカー持込みの運転者に請負わせる方法を採り、本件事故当時かかるダンプカー持込みの運転者は八名存在したが、右の者らはいずれも自らは土木工事業者としての都知事の免許を有していなかつたこと、被告酒井もそのうちの一人で、同被告は被告会社設立以前の昭和四八年九月ころから被告高坂のもとで稼働しており、右被告酒井が本件事故前の約一年半の間に他の業者の仕事をしたのは合計しても数日間にすぎず、他は専ら被告高坂ないしは被告会社のもとで土砂運搬作業に従事してきたこと、そして右稼働の態様は、一日あたりの対価が定められ、午前八時から午後五時まで被告高坂の指示に従つて稼働する、いわゆる「常用」と呼ばれる形態のもので、対価は毎月月末締め、翌々月一〇日ころ被告高坂ないし被告会社から一括して支払われ、本件事故当時の対価はガソリン代込みで一日金一万五〇〇〇円であつたこと、また日常の作業は、被告酒井がその自宅に電話を有していなかつたため被告高坂の方から連絡をとつたこともあつたが、殆んどは前日の夜に被告酒井の方から電話をかけ、それに対し被告高坂が翌日の作業の指示を与え、同指示に基づいて作業を行つていたこと、本件事故当日も被告酒井は他の者とともに被告会社の「常用」として被告会社が訴外白木土建から請負つた残土運搬作業に従事し、午後四時ころ所定の作業を終了したが、その際現場の土掘り工事を請負つていた訴外三興土木から被告高坂に対して右現場から出た赤土を他に運搬して貰いたい旨の依頼があり、被告高坂から右作業の条件等については右訴外三興土木と直接折衝するよう指示があつたので、折衝の結果「台数引き」(一台当たりの運送対価により仕事を請負うもの)の方法で右作業を請負うこととし、右契約に基づき赤土運搬作業中(被告車が被告酒井の所有であることは当事者間に争いがない。)に本件事故を惹起したものであることが認められ、被告会社代表者兼被告本人高坂利昌尋問の結果及び被告酒井均于本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

右認定事実によれば被告酒井は、本件事故当時被告会社と雇傭関係にあるとまではいえないものの、専属的な下請として被告会社の支配管理の下でその事業の執行に当たつていたものと見るべきで、事故時の赤土運搬作業も被告会社直接の作業ではないが、「常用」としての作業終了後、被告会社ないし被告高坂を介して請負つた同種作業であることが明らかであるから、被告車が被告会社の所有にかかるものではないが、同被告は本件事故時における被告車の運行につきそれを支配しかつ利益を収めていたものとみるべきである。

被告会社は、被告会社が専属的に請負契約を締結する者は任意保険に加入していることを条件とし、右契約を締結した者の所有車両には、被告会社名を表示させ、車体点検、給油等について便宜を与えているもので、被告酒井の場合には右被告会社名の表示がなく、便宜供与も与えていなかつたから、同被告は専属的下請ではなかつた旨主張し、被告会社代表者兼被告本人高坂利昌尋問の結果中に一部右の趣旨に沿う供述部分があるが、一方同供述の他の部分によると、被告会社の専属的下請となるための資格ないし条件はなく、車体表示も各人の自由であつたことが認められるうえ、前記認定のような被告会社における被告酒井の稼働状況等からするならば、右車体点検等における便宜供与を受けていなかつたからといつて専属的関係ではないとはいえない。

また 被告会社は、本件事故時の作業が同被告の作業ではないから、被告会社は運行供用者ではない旨主張するが、右主張の理由がないことは、前記判示のとおりである。

したがつて、被告会社は運行供用者として自動車損害賠償保障法三条に基づき、本件事故により生じた損害を賠償すべき義務がある。なお被告会社は同条但書に基づく免責の主張をするが、被告酒井に過失があつたことは前記一及び二1において判示したとおりであるから、右主張はその余の点について判断するまでもなく失当というべきである。

更に、前記認定の事実からすれば被告高坂は被告会社に代わりその事業を現実に監督していた者であり、本件事故当時の被告車の運転は外形的、客観的には被告会社の事業の執行としてされていたものと見るべきであるから、被告高坂は、民法七一五条二項に基づき、本件事故により原告らが被つた損害を賠償すべき義務がある。

3  被告立川市

本件道路及び交差道路が被告立川市の管理にかかるものであることは当事者間に争いがなく、したがつて本件交差点も同被告の管理にかかるものであることは明らかである。

前掲丙第六号証、成立に争いのない甲第五号証、乙第一号証、その方式及び趣旨からして公文書と認められるから真正に成立したものと推定すべき丙第八号証、証人宮田道男の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第二号証、第一六号証、第二一号証の一、二、第二二号証の一ないし四及び同証言ならびに弁論の全趣旨によると、本件道路は都営大山第一〇団地方面から五日市街道へ南北に通ずる、歩車道の区別のない幅負三・四六メートル、その内約三・一五メートル部分がアスフアルト舗装された平坦な直線道路で、両側には人家及び塀、いけ垣が続き、附近には小学校、幼稚園があつて通学路に指定せられ、時速二〇キロメートルの速度制限がなされており(道路の幅員及び通学路に指定されていることは当事者間に争いがない。)、一方交差道路は本件交差点で本件道路と直角に交差した、同一の幅員の舗装道路で、本件交差点から天王橋方面に向かつて車両進入禁止の措置がとられていること、また本件交差点については、西南角が三・一七平方メートル、南東角が三・二八平方メートル、東北角が四・四七平方メートル、北西角が二・九七平方メートルとそれぞれ隅切りがなされている外、北西角には一時停止標識とともに「角型道路反射鏡」(二面鏡)一基が設置されていたこと、本件事故当時の道路状況は以上のとおりであつたことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

ところで、原告らは、本件道路は車両制限令五条一項に該当する道路であり、その幅員からして被告立川市は本件道路について大型車両の通行制限、警告等の措置を講ずべきであつたとし、右措置の不存在が本件道路の管理の瑕疵にあたる旨主張する。本件道路が車両制限令五条一項に該当する道路であるとの主張がいかなる理由によるのかその根拠が必ずしも明らかではないが(本件事故当時、本件道路について同項所定の道路管理者による指定がなかつたことは弁論の全趣旨から明らかであり、また一方通行の規制措置が採られていなかつたことは当事者間に争いがないから、本件道路が同条項に定める道路ではなく、したがつて本件道路につき同条項の適用がないことは明らかである)、その点はさておき、なお道路幅員との関係で本件道路を通行し得る車両の範囲を検討すると、前記認定の道路状況からすれば、本件道路は市街化区域内の道路であることは明らかで、しかも歩車道の区別がなく、その幅員が三・四六メートルであることは前記認定のとおりであるから、車両制限令五条二項により車幅が〇・九八メートルを超える車両は通行することができず、前掲丙第一〇号証によると被告車の車幅は二・四五メートルであつたことが認められるから、同条項により、被告車が本件道路を通行し得ないことは明らかであつたというべきである。

ところで、道路法四八条二項によると、道路管理者は、同法四七条四項の規定による政令で定める基準を特に明示する必要があると認められる場所には、道路標識を設けなければならないとされており、右にいう同法四七条四項の規定による政令で定める基準とは、車両制限令五条ないし一二条所定の各基準を指すものであることは同令四条によつて明らかなところである。

しかしながら、道路標識によつて右基準を明示することを要するのは特にその必要のある場所に限られるものであり、右各基準のうち、他のものはともかく同令五条二項所定の制限基準は、通常、進入しようとする道路の状況、同幅員及び自己車両の幅員からして運転者自身において分別することができ、特に本件の場合においては、前記認定のような道路の幅員及び被告車の車幅からして被告車が本件道路に進入することができないものであることは被告酒井において容易に知り得たはずで、しかも本件全証拠を検討しても、本件事故以前に、本件道路に大型車両が頻繁に進入するとか、進入した大型車両が交通事故を惹起したことをうかがわせる証拠はなく、かえつて証人宮田道男の証言及び被告酒井均于本人尋問の結果によると、右のような事実のなかつたことが認められるから、本件道路が通学路に指定されていたこと(同事実は当事者間に争いがない。)を考慮に入れても、なお本件道路につき車両制限令五条二項所定の制限車幅を超える車両の進入禁止あるいは警告の道路標識を設けるべきであつたとはいえず、右のような措置が講じられていなかつたからといつて、本件道路の管理に瑕疵があつたとすることはできないものというべきである。

また原告らは、本件道路についてその交通の安全を図るため都公安委員会と協議協力し又は同委員会に助言して一方通行規制の措置の実現に努めるべきであつたとし、本件道路につき一方通行規制の措置が講じられていなかつたことがその管理の瑕疵にあたる旨主張するが、証人宮田道男の証言、同証言により成立が認められる乙第二四号証、被告酒井均于本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件事故当時の本件道路の車両の交通量は僅少であつたものと認められ、このことに加え、前記のとおり本件道路については時速二〇キロメートルの速度制限がなされていたことを勘案すれば、一方通行規制をしていなかつたことをもつて本件道路の管理につき瑕疵があつたものとすることはできないというほかはない。

更に原告らは、本件交差点について、その角に左右確認のためのミラーを設置する等自動車運転者の視野を改善するための措置を講ずるべきであつたとし、右措置の不存在が本件交差点の管理の瑕疵にあたる旨主張するが、前記認定のとおり、本件交差点の四方には隅切りが施されている外、北西角には「角型道路反射鏡」(二面鏡)一基が設置されているのであつて、本件道路及び交差道路に係る前記認定の道路状況をも勘案すれば、本件交差点が交差点として通常有すべき安全性を欠いていたとはいえないというべきである。

以上のとおり、本件道路及び本件交差点について被告立川市に管理の瑕疵があつたとする原告らの主張はすべてその理由がない。

三  損害

そこで、被告立川市を除くその余の被告らの関係で損害について判断する。

1  治療費

原告和雄が亡桂二の治療費として金七万七六八〇円を支出したことは原告らと被告酒井との間で当事者間に争いがなく、被告会社、被告高坂及び被告立川市との間では弁論の全趣旨により右の事実を認めることができる。

2  葬儀費

原告和雄が亡桂二の葬儀を営み、その費用として金三〇万円を支出したことは原告らと被告酒井との間で当事者間に争いがなく、被告会社、被告高坂及び被告立川市との間では弁論の全趣旨により右の事実を認めることができる。

3  逸失利益

原告長谷川和雄本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、亡桂二は昭和四四年一〇月五日生まれの健康な男子(本件事故当時満五歳)であつたことが認められるので、本件事故により死亡しなければ満一五歳から六七歳までの五二年間稼働し、その間毎年昭和五二年賃金センサス第一巻第一表、産業計、企業規模計、小学、新中卒の男子平均賃金年間合計金二五五万九八〇〇円の収入を挙げ得るものと推認することができ、右収入金額から亡桂二の生活費としてその五〇パーセント及びライプニツツ方式により年五分の割合による中間利息を控除してその現価を求め、同額から原告らの自陳する養育費額を控除しても、その残額が原告らにおいて亡桂二の逸失利益として主張する金額である金九七七万九五一二円を上廻ることは明らかである。

4  慰藉料

亡桂二本人の慰藉料については本件事故の態様、同人の年齢その他諸般の事情を考慮すると、その額は金二〇〇万円が相当である。

また原告らが亡桂二の死亡によつて多大の精神的苦痛を受けたことも容易に推認し得るところであり、本件事故の態様、亡桂二の年齢その他諸般の事情を考慮すると、原告ら固有の慰藉料額はそれぞれ金二五〇万円が相当である。

5  過失相殺

前記一認定に係る本件事故の態様によれば被告酒井の過失の大なることは言うまでもないが、被害者である亡桂二にも本件交差点内に一時停止中の加害車の直前付近を子供用自転車に乗つて横断しようとした点において不注意があつた点は否めないところ、同人は本件事故当時満五歳の幼児でありいまだ事理弁識能力を備えているものとは言い難く同人の右不注意を斟酌するのは相当ではない。しかしながら、原告らは、亡桂二が右のとおり学齢にも達しない幼児で交通事情に即して臨機応変に自己の自転車を運転しもつて危険を避けることを期待できないのであるから、たとえやむを得ず同人に対し子供用自転車に乗つて公道を通行することを許す場合でも自らも同行のうえ同人に対して相応の指示誘導を行う等し交通事故の発生を未然に防止すべき監督義務者としての注意義務があるのにこれを怠り単独行動をとるに任せて本件事故に遭うに至らしめたもので、本件事故の発生につき原告らにも過失があつたものといわざるを得ないから、これを斟酌し、本件損害額につき二割を減ずるのが相当である。

そうだとするならば、本件において被告らに対し賠償を求め得るのは、治療費損害として金六万二一四四円、葬儀費損害として金二四万円、逸失利益損害として金七八二万三六〇九円、亡桂二の慰藉料損害として金一六〇万円、原告らの慰藉料損害としてそれぞれ金二〇〇万円となる。

しかして、原告和雄、同冷子が亡桂二の父母であることは、原告らと被告酒井との間では争いがなく、被告会社、被告高坂及び被告立川市との間では弁論の全趣旨によつてこれを認めることができるから、原告らは右亡桂二の逸失利益損害賠償債権及び慰藉料債権をそれぞれ二分の一づつ相続により取得したものというべきである。

したがつて、本訴において被告らに対し請求し得べき損害賠償額は原告和雄が金七〇一万三九四八円、同冷子が金六七一万一八〇四円となる。

6  損害のてん補

原告らは自賠責保険から本件事故による損害賠償として金一〇〇七万七六八〇円を受領し、右金員をまず原告和雄が支払つた治療費及び葬儀費に充当し、その残額を二分して原告ら各自のその余の損害賠償額に充当した旨自陳するので、同自陳に基づき、まず本訴において原告和雄が治療費及び葬儀費として請求し得べき金三〇万二一四四円の債権に充当し、残額を二分してその余の原告らの各債権額に充当すると、残債権額は原告らそれぞれにつき金一八二万四〇三六円となる。

7  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告らは本件訴訟の提起、追行を同原告ら訴訟代理人に委任し、原告和雄において金八〇万円の報酬の支払を約束していることが認められるところ、本件事案の内容、審理の経過、認容額にかんがみると、賠償を求め得る弁護士費用は金五〇万円と認めるのが相当である。

そうすると右弁護士費用を加えた原告和雄の損害賠償請求権の金額は金二三二万四〇三六円となる。

四  以上の次第であるから、被告酒井均于、被告会社及び被告高坂利昌は、各自、原告和雄に対し金二三二万四〇三六円及び右金員から弁護士費用を差し引いた金一八二万四〇三六円に対する本件事故発生の日である昭和五〇年四月一五日から、内金五〇万円に対するそれぞれ被告らに対し訴状が送達された日の翌日であることが記録上明らかな被告酒井については昭和五一年八月一九日から、被告会社、被告高坂については同月二二日から各支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、原告冷子に対し金一八二万四〇三六円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五〇年四月一五日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、それぞれ支払義務があるものというべく、原告らの右被告らに対する請求は右の限度で理由があるから認容し、その余の請求及び被告立川市に対する請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文及び九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小川昭二郎 福岡右武 金子順一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例